P.A. シャポー(P.A. Chapeau)

Originally shared by Itonaga “Siel Dragon” Naohiro

P.A. シャポー(P.A. Chapeau)
2016/10/20 13:16:24
世界各地から何十名ものエージェントがこの文書の断片回収に協力した。オペレーション・エセックス調査員のイク・シェンリーは呼び掛けに応えた多くのエージェントを一覧にまとめてくれた。

この文書によって、ハンク・ジョンソンとやりとりした後のスザンナ・モイヤーの足取りが垣間見えた。実に興味深い内容だが、アコライトの集落でスザンナ・モイヤーの行ったやりとりに関する文書が更に存在していることを突き止めている。今後数日のうちにその文書の手掛かりを掴むことができるに違いない。期待していてほしい。



女はビッグサーにある渦巻き模様の天使壁画からさほど遠くないハイウェイ1の路肩でウーバーから降りた。女は一瞬目を懲らしたが、道路を下り始めた。右手には海が、左手には林がひろがっていた。ジョンソンが言うには、アコライトは歓迎の意を示し確かに乗り気であったという。

半刻が経ち、女は目的の集落と思われる場所へと辿り着いた。遠目には古びた小屋が点在していた。指示されていたとおり、女は路上で待った。深呼吸すると磯の香りや松の香りがした。逸る気持ちを落ち着けようと瞳を閉じる。「ここにいるのよ、スザンナ...」女はそう己に語り掛けた。女が立っているのは世界で最も美しく、そして最も神秘的な場所だった。何十年にもわたって教祖や芸術家、詩人が脚を向けていた場所だ。更に遡れば、おそらくは呪術師がこの地を巡礼していたことだろう。

あらゆる地が同じというわけではないのだ。

女に一瞬の疑念がよぎった。消えてしまうのではないかと。当座を凌ぐための偽造パスポートや充分な金銭は用意していた。奴らとていずれは捜索を断念するはずと信じて。

父親のナイジェル・モイヤーが死に際に女へ伝えたパスワードを暴露しさえすれば、奴らも捜索を止めることだろう。誰しもへ公表することはできる。そうすれば、奴らが女を殺害する意味は失われるのだ。あるいは失われることはないというのだろうか。

しばらくは情報網から逃れておくことが賢明に思われた。忘れ去られた砂浜を探すか雑踏に身を潜ませるかだ。実際、ここから程近い林の中にある小屋は相応しく思えた。ポータルや情報網から離れた場所にあることはわかった。電話も持たず、カメラも持たず、帽子とサングラスで姿をごまかし、足跡を隠した。奴らの捜索は困難を極め、時間を要すると思われた。あるいは困難とはならぬのだろうか。エイダやオムニボアが関与していたなら、奴らが断念することはない。人工知能にとっての問題になれば、決して断念することはないし時間切れも資金切れもない。人員の再配置も必要ない。人工知能とは、決して屈せぬ存在なのだ。

だが、エイダはオフライン状態となったはずだ、と女は考えた。「はずだ」というのは状況は進展しているからだ。そして、オムニボアは健在であった。

「あなたを安全な場所へお連れしましょう」と声が聞こえた。女は大いに驚いたが、跳び上がるようなことはしなかった。なんとか落ち着かせた。それは柔らかでなだめるような声であった。

女が振り返るとそこには、道路脇に立つアコライトの姿があった。「なんてことなの...」

「あなたがやってくる姿なんて見てなかったわ」

「いずれにせよ、あなたに察知することは無理だったでしょうね。私たちは異なる時の流れに身を置いていたのですから。」

「未来から来たということかしら?」

「たった今、過ぎ去りましたよ。考えてみれば、パラドックスの類ですね。」



P.A. シャポー

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